TOCこぼれ話

「ゴールはどこへ消えた?」コラム集

(p.35)
■TOCは拝金主義?

 『ザ・ゴール』では、企業の目的は「現在から将来にわたって、お金を儲け続けること」と述べられました。そのため、TOCは拝金主義であるという、なんともトンチンカンな非難がかつて生まれました。また、主にDBRについて述べられたため、TOCは、単なる生産効率化の方法論であると誤解される傾向が生じました。

 ところが、『ザ・ゴール2─思考プロセス』(原題It's Not Luck)では、企業の目的として、「現在から将来にわたって、お金を儲け続ける」に加え、「現在から将来にわたって、市場を満足させる」、「現在から将来にわたって、従業員に対して安心で満足できる環境を与える」という二つが掲げられています。

 『ザ・ゴール』は、主人公のアレックス・ロゴが、DBRを援用し、3ヵ月で自分の管理している工場の成績を改善するという物語でしたが、『ザ・ゴール2─思考プロセス』では、アレックスは、二束三文で売り払われかけている自分たちの働く会社を舞台に、三つの命題を同時に成立させることに成功します。

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(p.61)
■中小企業診断士試験にTOCの設問登場

 TOCの普及度合いを示すように、平成14年度の中小企業診断士試験に、TOCの問題が出題されました。

第18問

 サプライチェーンマネジメント(SCM)を実施する際に、TOC理論の適用が議論されている。TOC理論の説明として正しいものはどれか。

(ア) TOC理論とは、SCMのソフトウェアにビルトインされるツールであり、在庫情報を一括して管理し、過剰在庫が生じているプロセスを特定して、それが起きる制約条件を明らかにし、サプライチェーンの全体最適化を図る考え方である。

(イ) TOC理論とは、システムの制約となるプロセスを見つけ、業務プロセス全体のチェーンのなかで該当する制約条件を前提にして、システム全体のスループットを向上させる考え方である。

(ウ) TOC理論とは、JITの考え方をベースにして、在庫をゼロにするために、業務プロセス上のボトルネックを把握し、ボトルネックとなる制約を取り払う考え方である。

(エ) TOC理論とは、PERTの考え方をより洗練させたものであり、業務プロセスのなかのクリティカルパスを見つけ、それを改善することで、システム全体の制約を取り払う考え方である。

 本書の読者ならおわかりですね。解答は、(イ)

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(p.67)
■レイオフは愚策

 1980年代、アメリカは、強い日本の製造業に圧倒され、リエンジニアリングを行いましたが、このときのリエンジニアリングは業務費用の削減を目指したものでした。アメリカで業務費用の削減とは、端的に言えば、レイオフを意味します。その結果、博士号を持った技術者が、例えば、タクシーの運転手をやって糊口をしのいだというようなことが起こりました。

 現在では、1980年代を振り返り、当時のリエンジニアリングで成功したものはないと評価されているようです。いまの日本は、当時のアメリカの失敗と同じ轍を踏んでいるのではないでしょうか。

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(p.75)
■スループット・ダラー・デイズと在庫ダラー・デイズ

スループット・ダラー・デイズ(Throughput-dollar-days)

 スループット・ダラー・デイズは、特定の日までに特定のオーダーを出荷することに失敗した実績を測定する尺度です。

 換言すれば、納期遵守の度合いの尺度で、納期に遅れたオーダーのスループットの大きさに、オーダーに遅れた日数をかけて得られた数値です。つまり、100万円のスループットを持つオーダーが、10日遅れれば、1000万円となります。

 理想的には、これらの値を合計したものはゼロであるべきものです。この尺度は、仕損じ品の手直しを減少させ、品質を向上させるための動機づけにも有効といわれています。

在庫ダラー・デイズ(Inventory-dollar-days)

 在庫ダラー・デイズは、過剰在庫の尺度です。

 例えば、満足できる納期遵守度を実現するのに1週間分の最終製品在庫があればよいと考えられているときに、10日分の在庫があると、3日分が余分です。1日の出荷量を10単位、過剰在庫の価格を100万円として計算すると、在庫ダラー・デイズは、

  100万円×{10単位×(1日+2日+3日)}=6000万円

となります。(1日+2日+3日)は,過剰在庫を解消するのに3日かかる(1日に10単位ずつ減っていく)ということです。

 この業績尺度の値も、理想的にはゼロであるべきであると考えます。

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(p.81)
■スループット会計は、スループット計算

 スループット会計は、英語では、"Throughput Accounting"と呼ばれています。これを「スループット会計」と訳したことで混乱が生じています。すなわち、「会計」なる言葉に惑わされ、なにか「スループット会計」は、会計学の一部、ないしは、その一部を置換するようなものであるかのように考えてしまいがちですが、実はそのようなものではないのではないでしょうか。

 Throughput Accountingは、文字どおり、「スループット計算」と考え、現段階ではあくまでも、制約資源が単位時間あたりどれだけのスループットを生むかに注目して、製品ミックスについての意思決定を行うための基準として使うものだ、と単純に考えたほうがよいようです。

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(p.92-93)
■スループットは貢献利益、付加価値とどう違うか

 スループットに似たような概念に、貢献利益、付加価値があります。それでは、スループット、貢献利益、付加価値はどのように違うのでしょうか。

 まず、スループットは、売上高-真の変動費合計と定義されています。

貢献利益

 一方、貢献利益は、売上収益から変動費を差し引いた残額で、限界利益ともいわれます。そして、会計学的な意味での貢献利益 は、 貢献利益 = 売上高-直接材料費-直接労務費-販売直接経費-変動製造間接費 と定義されているようです。

 さて、貢献利益とスループットの違いは、直接労務費、変動間接費を変動費と考えるかどうかです。

 伝統的な直接原価計算での「変動製造間接費」とは、補助材料費(ニス、ペイント、くぎなど)、工場消耗品費(重油、潤滑油、紙やすりなど)、消耗工具器具備品費(ドリル、計器、ハンマーなど)を指します。

 一方、スループット会計での「業務費用」は、役員報酬、給与等の社員人件費、賃料、水道光熱費、消耗品費(糊、仕上用化成品など)、設備費、利息、その他の費用すべてを含み、この中には直接労務費も含まれています(『制約理論(TOC)についてのノート』第5章参照)。

▼直接原価計算とスループット会計の比較
(Source: The theory of Constraints and Its Implication for Management Accounting by Eric Noreen 他)

伝統的な直接原価計算直接労務費を固定費とした直接原価計算スループット会計簡易スループット会計
売上 - 直接材料費 - 直接労務費 - 変動間接費※ = 貢献利益売上 - 直接材料費 - 変動間接費※ = 貢献利益売上 - 真の変動費合計 = スループット売上 - 原材料費 = スループット
売上 - 直接材料費 - 直接労務費 - 変動間接費※ = 貢献利益売上 - 直接材料費 - 変動間接費※ = 貢献利益売上 - 真の変動費合計 = スループット売上 - 原材料費 = スループット
貢献利益 - 固定費 = 利益貢献利益 - 固定費 = 利益スループット - 業務費用 = 利益スループット - 業務費用 = 利益

※変動間接費(製造、非製造双方)

付加価値

 製造業で生産される製品は、原材料に労働が加えられ、その存在形態を変更して製品となり、消費者に届けられます。製品とするには、通常の原材料費のほかに設備・施設の維持運転のための諸費用や、水道光熱費、補助材料費、石油などのエネルギーなどの各種の消耗品費などの諸費用を含めた、広い意味での原材料費等に作業者の労力が加えられます。

 つまり、「売上-原材料費-外注加工費-部品購入費-変動製造間接費や石油のような諸経費」が付加価値です。この付加価値により、人件費、償却費、利子、税金、役員賞与、配当、留保利益がカバーされます。

 ちなみに、これらの付加価値を全部集計すると、国民総生産になります。

 このように考えてくると、スループット会計のスループットと付加価値の違いは、諸経費(=変動製造間接費、設備・施設の維持運転のための諸費用や、水道光熱費、補助材料費、石油などのエネルギーなどの各種の消耗品費)にあるようです。

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(p.111)
■TOCは、レイオフやリストラを憎悪する

 ベストセラーになった『ザ・ゴール』は、工場の生産管理を扱っています。そのため、TOCが単なる生産効率化の論理だと誤解される傾向があります。TOCが生産分野だけに導入されると、工場労働者を中心にさらにリストラが横行しかねないという声すら聞こえます。

 このことについて、ゴールドラットは、2001年11月に行われたインタビューをもとにダイヤモンド社が作成した記事のなかで、「産業に貢献するどころか、人々の生活を破壊することにでもなったら、それは私の願いと正反対である」という直接的な言い方をし、人に温かい考えが根底にあることを強調しています。

 イスラエル人であるゴールドラットには、42歳まで、毎年最低30日間の兵役の義務が課せられました。ある年、レイオフされて1年以上職を見つけられないでいる男と同じ兵舎に入ったゴールドラットは、「失業が人を不安に陥れ、プライドを奪う、おぞましい体験だということを理解し」「それ以来、感情的といってもいいほどレイオフやリストラを憎むようになった」と、同記事で述べています。

 ただ、これをヒューマニズム的見地から主張するのではなく、「効率を正しく追求すれば、むしろリストラの必要はなくなる。マネジメントが追求すべき優先順位を間違えるから、リストラに頼らざるを得ない状況に陥ってしまうのだ」としているところが、TOC産みの親のゴールドラットの真骨頂といったところです。

 そのような考え方を前提に、ゴールドラットは、日本の終身雇用制を「日本企業の競争力の源泉の一つ」ととらえており、昨今のリストラ旋風に、「日本企業はこの美徳を放棄しつつある。従業員に忠誠を尽くさない企業が、従業員からの忠誠を期待することはできない。従業員の忠誠を得られない企業は顧客からも忠誠を得ることはできず、遅かれ早かれ、市場から淘汰されてしまうだろう」と警鐘を鳴らしています。

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(p.127)
■動き始めた日本のTOC状況

 2002年は、日本のTOC元年といわれ、TOCへの関心、期待が高まってきています。
 2002年4月現在、日本でTOCの普及に取り組んでいる各社について、最新情報をお知らせします。

日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)
日本TOCの老舗。村上悟氏を中心に、活動している。現在、ゴールドラットとの協力関係を模索中
日本総合研究所(JRI)
最大手のシンクタンクである同社では、久道雅基氏をリーダーに展開している。最近、AGIとアライアンスを組んだことが話題になった。
エム・ストーン インターナショナル(MSI)
toc-japan.comの実質運営を行う。小林英三氏を中心に、TOC関係の書籍出版企画から、外国人コンサルタントの紹介、また研修コースの開発、実施など、幅広い活動を行っている。
NECユニバーシティ
研修を通じ、TOCの普及に力を入れている。

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(p.137)
■DBR用のデータは「いい加減」でいい

 スリカンス、アンブルは、『シンクロナス・マネジメント』(スリカンス、アンブル著、小林英三訳、ラッセル社)で、次のように言っています。

「ほとんどの工場では、スケジュール作成に必要な情報のベースとなるデータは、大きな誤差を持っている」

 DBRで、データ精度が求められるのは、部品表、ドラム(制約資源)での処理時間など、一部の情報についてのデータだけです。なぜなら、DBRでは、戦略的な場所にタイムバッファを設置するからです。これは、言ってみれば、自動車のハンドルの遊びのようなものです。この遊びがあるからこそ、自動車は、まっすぐに、安定して走行できます。

 同じように、DBRでは、「いい加減」なデータでも、たとえ状況が変化しても、始終リスケジュールを行わなくて済む頑健 (robust)なスケジュールが作成できます。ここが、TOCのいいところです。

 製品を納期どおりに出荷するには、精確な部品表、工順、在庫についてのファイル類が重要です。CCRでの標準時間も、完全で、精確でないといけません。

 しかし、ボトルネックでない資源や、CCRになっていないところの標準時間は、それほど重要ではありません。したがって、その精度もほどほどのもので許されます。極端に言えば、二つ直列に並んでいる工程を一つとみなしてもよい場合すらあるのです。

 CCRでない資源についてのデータ精度向上で得られるものは、比較的、大きくないので、そこに、貴重な時間や努力を浪費する必要はありません。

 詳しくは、同書第6章をご覧ください。

(注)CCR:Capacity Constraining resorce:キャパシティ制約資源

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(p.143)
■続々登場するHaystack Compatibleソリューション

 2002年3月現在、日本で販売されているHaystack Compatible ソリューションは、MAPICSジャパン社が、最近、『MAPICS SCMソリューション』と名称変更したThru-Putだけです。

 マーク・ウオッペルによると、彼が、これまでのDBRインプリメンテーションの経験を背景に、自ら開発したManuSyncという製品が、近々、日本でも販売されるようです。この製品は、Haystack Compatible Systemと言われています。

 また、ゴールドラット博士から、じかに聞いた情報では、『Factory Planner (i2)』も、『シンクロナス・マネジメント』の著者の一人であるスリカンス博士の力を借り、Haystack Compatible Systemへの変身を図っているとのことです。

 この世界も、にぎやかになってきつつあるようです。

 一方、DBRではありませんが、スループット会計のソリューションとしては、MAXAGER社の『MAXAGER』という製品が有名です。この製品は、すでに日本で販売されていて、実績もあるようです。

 また、プロジェクト管理手法でTOCを活用する“クリティカル・チェーン法”として『ProChain』(Prochainソリューション社)があります。

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(p.149)
■DBRソリューションとスケジューラ

 DBRソリューション(ソフトウェア)は、TOCを知らない人からは、いわゆるスケジューラと混同される恐れがあります。現実に、どちらを導入するかという話を聞いたことがあります。

 本書を読んだ方にはおわかりのように、DBRは5段階継続的改善の中のステップ2とステップ3を行うためのものです。その目的は、TOCの考え方に沿って、リードタイムを短縮し、在庫を減らし、納期遵守度を向上させ、顧客ニーズを満足させ、スループットを増大させることで、まさに経営の問題です。

 これは、従来の現場でのスケジュール作成担当者が行ってはこなかった責務です。したがって、DBRソリューションを使ったスケジュール作成は、これまでよりもシニアなマネージャーが行うべきでしょう。

 一方、スケジューラ・ソリューションですが、例えば、あるスケジューラの売り文句で、「生産現場のスケジューリングについて知らなくても、ボタンを押すだけでスケジューリングができる」という類のものがありました。これで、スケジューラの「正体」は、おわかりいただけるでしょう。

 もし、あなたの周辺で、DBRソリューションを導入するか、スケジューラを導入するかという議論があったら、このコラムを読ませてあげてください。

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変化(5段階継続的改善プロセス)への抵抗ー9つのレベル

TOCの導入は、換言すると、TOCにより、業務フローのリエンジニアリングを行うことです。

リエンジニアリングとは?

TOCなどのツールを使い、業務プロセスの有効性を高め、それにより、生産性を向上させる革新的 (revolutionary) な方法で、決して、漸進的(evolutionary)な方法ではありません。

したがって、その目標は(漸進的な改善ではなく)、100%とか、それ以上の「大きな飛躍」を、急速に実現することです。

→ 既存業務プロセスの部分的な手直しではなく、どうすべきかを、「Start over from scratch (はじめから作り直す)」 必要があります。

→ 自由で、柔軟な発想、創造性を基礎に置いた議論を行うことが必要です。

ということは、大きな変化が必要となります。ここに、一つの人間の側面が表面化してきます。それは、変化への抵抗です。

TOCでは、この変化への抵抗は、従来、5つのレベルがあると言われてきましたが、最近では、それが9つのレベルの抵抗があると言われています。

それらは、以下のようなものです

  • 第1レベル 問題なんかないよ
  • 第2レベル 問題が違うんじゃない
  • 第3レベル 俺の問題じゃないよ
  • 第4レベル 他の方法の方がいいよ
  • 第5レベル そんな改善策じゃ、問題全体に対応してないよ
  • 第6レベル そうだけど、悪影響もでるよ
  • 第7レベル そうだけど、そんなことできないよ
  • 第8レベル どうやったらよいか、はっきりわからないよ
  • 第9レベル 恐れやよくわからないための抵抗

TOCの成功には、これらの抵抗を上手に排除することが必要です。

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