TOCサマリー

制約理論(Theory of Constraints、以下、TOC)は、日本で生まれたジャストインタイム(以下、JIT)生産方式よりも優れた生産理論といわれています。実際、米国のみならず、その他の国々で、時間と労力を費やして構築したJIT環境からTOC環境へ移行する企業も散見されているようです。実際、あるアメリカ人は、制約理論による生産システム(TOC、CM、あるいは制約管理)は、JITに比較し、1/4の時間で、さらによい結果を実現できる生産システムだといっています。

米国でも、TOC支持者がTOCについて熱っぽく語ると、聞き手に逆影響し、よく「本当だと信じられないほどに、話がうますぎる」と思われているくらいに業績が改善できる生産方式といわれています。例えば、アメリカのある学者は、年季の入ったTOCの実務家のプレゼンテーションを見たあと、TOCは「ほら (snake oil)」以外のなにものでもないといい、その実務家を信用できない「福音伝道者」だといったといわれています。

TOCは1990年代の初め頃から、欧米を中心に導入が始まり、導入した会社は無数にあるとのことですが、素晴らしい成果を挙げるので、他社の追従を恐れ、一般に、成功例を公表したがらないと言われています。APICSのCMSIGのメールリストへの投稿で見る限り、導入企業は、地域的には米国に限らず、英国、ドイツ、オランダ、イタリア、スペインなどの欧州諸国、豪州、ニュージーランド、中南米、東南アジア諸国にも明らかに存在しています。それにもかかわらず、生産の国、日本では、その内容が殆ど知られていません。

TOCは、イスラエル人の物理学者、エリヤフ・M・ゴールドラット博士が1970年代に開発した生産現場でのスケジューリングを行うソフトウェア「OPT: Optimized Production Technology」までさかのぼることができるといわれています。ゴールドラットは、1974年末に、このソフトウェアを親戚の依頼で開発し、設備や労力の追加なしに、生産を40-50%増加させることに成功しました。まだ、ゴールドラットが学生だったころのことでした。彼は、中東戦争に参加した後、1978年に30歳で大学を卒業しましたが、OPTの優れた点を認識していたCDC社の勧めで、Creative Output Inc.社を設立しました。アメリカでの最初のプロジェクトはGEの防衛システム事業部での仕事でしたが、そこで彼は、スループットを30%増加させ、かつ、在庫を半減させることに成功しました。Creative Output Inc.社は高成長企業となりました。

1984年、ゴールドラットは産業小説 "The Goal" を出版し(1986年に改訂版を出版)、OPTの考え方を同書の中で明らかにしました。この本は、中国語を含む十数か国語に翻訳され、世界で200万部も売れたベストセラーになりました。なぜか、日本語版は、まだ、ありません。"The Goal" は、アレックス・ロゴという主人公が、自分の管下にある工場の成績が改善されない限り、3ヵ月後には閉鎖すると予告され、奮闘する「産業小説」です。アレックスは、ジョナというイスラエル人の物理学者の指導の下に、5段階継続的改善プロセス、スループット、在庫、業務費用などのTOC概念を学び、現場に適用することで、たった3ヵ月で業績を改善するというストーリーです。ここで、強調しておきたいことがあります。それは、小説 "The Goal" の主人公アレックスが、自分の工場の業績を、たった、3ヵ月で改善し、工場の閉鎖を免れたということです。この本はたくさん売れましたが、ここでゴールドラットにとってショッキングな問題が発生しました。この本を、たったの15ドルで買った企業が小説の中の考え方を実行したところ、彼の高価なソフトウェアを購入して導入し、社員を教育した企業よりも、よい成果を挙げてしまったのです。この本を買って、そこに述べられている考え方を実行した多くの企業で同様なことが起こりました。つまり、制約理論は、あまり難しく考えず、その基本的な原理を理解し、トップの支持の下で、要点を押えて展開して、生産システムの中に存在する制約資源を明確に意識し、それを徹底的に使うことを試行錯誤的に行うことから開始でき、また、その効果も短期間で現れてくることを意味していると思います。

TOCを導入したケースのサクセス・ストーリーに一般的に共通して見られる効果は、

  • スループット(売上-原材料費等の真の変動費)の増加
  • リードタイムの短縮
  • 品質向上/仕損じ減
  • 納期遵守度の向上
  • 在庫減
  • サイクルタイムの短縮
  • 督促の減少
  • 原材料の購入から現金になって企業に戻ってくる
  • サイクルの短縮による資金回転率の向上
  • 顧客からの信頼向上、顧客への納入ロットサイズが小さくなることによる顧客の在庫の減少

などのようで、これらを通じ、競争力の強化、そして、その結果としてのボトムラインの改善が実現でき、そして、導入を開始後、多くの場合、90日から120日で、効果が現れてくると言われています。

TOCは、大はゼネラル・モータース、ボーイングのような超大企業から、小はドーナッツ・ショップまで、また、航空会社や電話会社、異色なところではアメリカ空軍の医療サービスやロジスティックスの合理化まで、さまざまな規模、さまざまな業種の組織に導入されています。

財貨やサービスは、違った種類の資源を使う一連のステップからなる生産システムで生産されます。ある製品を作るには、ステップや作業を指定した順序で完了しなければなりません。システム全体の産出量は、システムの中の制約となる資源により制限されます。伝統的な生産管理アプローチが、本質的に各作業を独立した活動と見て、各資源ごとに、稼働率や作業能率などの業績測定尺度を使い、資源の活動を個別に管理するのにたいして、TOCは、生産システムを全体としてとらえ、システムの持つ制約に注目して、スループット(売上-真の変動費)を最大にすることを目的とします。

TOCでは、従来の伝統的な原価計算システムや、ともすれば部分最適を指向しがちな生産工学に基づく業績評価を「コスト・ワールド」と呼び、TOCの世界を「スループット・ワールド」と呼んで、「コスト・ワールド」から「スループット・ワールド」へ移行することで、企業業績が短期間で改善できると主張しています。

このように、TOCは、システム的な視点に立ち、システムの持つ制約に着目して意思決定を行いますが、TOC支持者は、従来の原価計算システムやABC、生産工学のみならず、生産管理システムであるMRP II、JITなども、システムの持つ「制約」を明示的に意識していないという観点から批判しています。

TOCは、大別して、三つの部分から構成されています。その一は、スケジューリング・プロセスを含むロジスティックス分枝、その二は、スループット、在庫、業務費用を中心概念とする業績評価システム分枝、そしてその三は、ゴールドラットが開発したといわれる問題解決/思考プロセス分枝です。これらの三つの分枝は、全体として制約理論と呼ばれるものを構成し、相互に関連していますが、分枝の名が示すように、それぞれ制約理論のまったく別の側面をカバーするものです。

ロジスティックス分枝は、5段階継続的改善プロセス、スケジューリングプロセス、V-A-T 分析からなっており、そして、スケジューリングプロセスは、ドラム・バッファ・ロープシステム (DBR)、バッファ管理からできています。業績システム分枝は、スループット会計の基礎概念である1)スループット、在庫、業務費用、2)製品ミックスの決定、3)業績指標であるスループット・ダラー・デイズ、在庫ダラー・デイズを要素として持っています。問題解決/思考プロセス分枝は、ECE図 (effect-cause-effect diagram: 因果関係図)とその成分(マイナス・ブランチ制限、現状問題構造ツリー、未来問題構造ツリー、前提条件ツリー、移行ツリー)、ECE検証プロセス、および、エバポレイティング・クラウド (evaporating cloud methodology) からなっています。

TOCでは、

  1. 問題解決/思考プロセス分枝の持つツールを使い、生産現場で発生している好ましくない事象の根本原因を見つけ、それらを除去することで、問題の根本的な解決を企図し、
  2. 業績システム分枝の持つ諸概念を使い、スループットを最大にする最適製品ミックスを定義し、また、マネージャーが日常的に行なう個々の意思決定が、会社全体としての業績評価尺度である純利益、ROI、キャッシュフローの改善や向上に整合するように、業績評価システムを変更し、
  3. ロジスティックス分枝を使って、5段階継続的改善プロセスにより継続的に企業業績が改善できるプロセスを実現し、あわせて、ドラム・バッファ・ロープシステムにより、最適製品ミックスの生産を実現できるスケジュールを作成して、スループットを最大とします。

TOCでいう制約は、「あるシステムが、そのシステムの目指すゴールに関して、より高い業績レベルを達成するのを妨げる要素や要因。制約は、マシンセンター、資材の欠如のような物理的なものだけでなく、ポリシーや手順のような管理的なものも含む」と定義されます。生産環境で考えると、「制約」といえば、すぐに物理的な生産設備などやスキルを含む人手の制約を思いつきます。しかし、TOCでは「市場」も制約となりえます。TOCでいう制約には、スループットの増大を妨げるものはすべて制約です。

TOCでは、企業の目標(ゴール)は「現在、および将来にわたって、お金を儲ける(make money now and in the future)こと」と定義しています。明示的には示されていませんが、企業の目標についてのTOCのこの定義は、企業がよき社会の一員として行動することは当然すぎるほど当然のことと前提した上での定義です。とすると、営利企業の目標は「よい業績を挙げること」に凝縮され、制約理論の組立の心棒として、このように定義されているのだと考えるのがよいと思います。なぜなら、ここを曖昧にすると、制約理論が成り立たないからです。

このような背景から、制約理論で導入されたのが「スループット会計」と呼ばれるもので、これはスループット、在庫、業務費用の三つの概念の上に組立てられています。

  • スループット (T) -システム(会社)が、販売によりキャッシュを生み出すレート。
  • 在庫 (I) -(加工などをして)再度売却するために購入された品目と定義され、最終製品、仕掛品、原材料を意味する。在庫は、常に購入価格で評価され、付加価値原価を含まない。この点が、伝統的な原価計算では、生産プロセスを通して仕掛品が進むにつれ、直接労務費と間接費が配賦されていくのとは異なる。
  • 業務費用 (OE) - 制約理論では、企業が、特定の期間において、在庫を販売に変換するために費やした金額を意味する。

「スループット」とは、換言すると、[売上-真の変動費]です。したがって、原材料費に加え、販売コミッション、出来高払いの臨時工の賃金、運賃など、販売数量に従い変化する費用はスループットの計算に入りますが、対象領域が狭い意味の生産システムの場合は、[売上-原材料費]と定義できる場合もあります。

「在庫」とは、最終製品、仕掛品、原材料を意味します。直接労務費と間接費を配賦しないのは、「直接労務費」を製品に正しく対応づけることが困難であり、また、間接費の配賦がどうしても恣意的になり、結果的に得られるいわゆる「製品原価」が歪んでしまうためです。こうして算定された原価は、昔からよく知られているように、最適製品ミックスについての意思決定には使えません。

「業務費用」とは、原材料費を除いた、その他のすべての費用を意味します。役員報酬、ペイロールに乗っている正規社員の直接労務費を含む給与、福利厚生費、賃料、水道光熱費、消耗品費(糊、仕上用化成品など)、設備費、間接部門のすべての費用、利息、その他の費用すべてが業務費用に含まれます。これらの費用は、企業が、ある特定の期間において、在庫を販売に変換するために費やした金額であると考えます。そして、これらの費用は、(少なくとも短期では)販売数量の増減に関わりなく、固定的な経費と考えます。こうして、制約理論では、「利益=スループット-業務費用」となります。

会計学的な意味での貢献利益の定義は下のとおりです。

貢献利益 = 売上高-直接材料費-直接労務費-販売直接経費-変動間接費

『会計学大辞典』(編集代表 森田哲彌、岡本清、中村忠、中央経済社発行)には、限界利益(=貢献利益)は、「製品系列とか販売地区というセグメントごとの相対的な採算検討においても、より客観的に比較分析できるので、製品組合せ政策とか販売経路・促進政策や、各種の個別計画(内製か外注かなど)の決定に有効な資料を提供しうる」(P.295)と記されています。TOCの立場からの貢献利益への批判の一つは、直接労務費を差引くことと、変動間接費を配賦して差引くこと、そして、もう一つは、貢献利益が、製品別に制約となる設備での加工時間が異なる場合、その設備での単位時間あたりの製品別貢献利益生成のレートを考慮していないことです。仮に、会計学の立場でも、貢献利益の計算に直接労務費を差引くことと、変動間接費を配賦して差引くことを行わないと仮定します。そうすると、上の貢献利益の定義式は下記のようになり、貢献利益はスループットと一致します。

貢献利益 = 売上高-直接材料費-販売直接経費などの真の変動費 = スループット

製品間の収益性の比較を行おうとすると、通常、製品別に制約資源での処理時間が異なりますから、正しい比較は制約資源での単位時間あたりのスループット・レートで行う必要が出てきます。こうして、比較のためのスループットのディメンジョンは「制約資源での単位時間あたりのレート」となります。

しかし、会計学はシステムの制約資源を意識して、貢献利益を計算していません。したがって、貢献利益は、「製品系列とか販売地区というセグメントごとの相対的な採算検討においても、より客観的に比較分析できるので、製品組合せ政策とか販売経路・促進政策や、各種の個別計画(内製か外注かなど)の決定に有効な資料を提供しうる」という考え方は、間違っているという批判になるわけです。

数値例で考えてみましょう。この例では、貢献利益の計算に、直接労務費を差引くことと、変動間接費を配賦して差引くことをしないと仮定します。いま、製品Aと製品Bがあり、その単位当りの価格とスループット(この例では、スループット=貢献利益)は上表の通りです(単位:ドル)。これらの製品はいずれも、生産システムの制約となっている資源での加工を必要とします。制約資源での処理時間は、製品Aは10時間、製品Bは1時間です。この場合、どちらの製品の収益性が良いでしょうか。貢献利益による判定では、勿論、製品Aの方が製品Bよりも、製品1個あたり2倍も収益性が良いと判定され、製品Aに軍配があがります。

スループット会計での収益性の判定は、制約資源での単位時間あたりのスループットの大きさ(スループット・レートと呼ぶ)で比較します。スループット・レートで比較すると、今度は、製品Bの方が、製品Aよりも5倍も収益性が良いと判定されます。そして、実際に生産してみると、確かにスループット(この例の場合は、貢献利益と等しい)は製品Bの方を優先した方が大きくなります。 上の考え方は、ゴールドラットの発明ではなく、昔から知られていました。例えば、『経済性工学の基礎』(JMAM、45-46ページ、116-118ページ)で、千住、伏見先生が何十年も前から指摘されていますが、まさに、この「レート」は制約理論の「スループット・レート」と同一で、損得勘定は「可変的要素のみで比較する」という一語に尽きます。

一般に、生産システム内では、製品間に有限な生産資源、原材料についての衝突が起こり、その結果、優先順位コントロールが必要になりますが、TOCは、製品間のインタラクションを考慮していない方式は、通常、正しい意思決定にいたらないという主張を持っています。

TOCでは、下のような5段階継続的改善プロセスを繰り返し、スループットを飽くことなく増大させようとします。

  1. 制約条件を見つけ、確認するというステップ
  2. システムにとり制約となる工程をどのように活用 (exploit) するかを決めるステップ
  3. 制約プロセス以外のプロセスを制約プロセスに従属させるステップ
  4. システムにとり制約となる工程のキャパシティを高める (elevate) というステップ
  5. 1)から4)までのステップで、制約プロセスと認識されていたプロセスが制約でなくなったら、面倒がらずにステップ1)に戻るというステップ

上で見たように、「スループット会計」は、スループット (T)、在庫 (I)、業務費用 (OE)の三つの概念を使って組立てられています。制約理論では、理屈から考え、業績を改善するには下の三つの方法があります。

  • T を増大させる
  • I を減少させる
  • OE を減少させる

しかし、制約理論では、業績改善に、「T を増大させる」、「I を減少させる」の二つの方法に主眼を置き、OEは増加しないように管理するという基本姿勢を持っています。これは、1980年代のBPRから得た貴重な体験に根ざしたもののようです。OEを減少させるためには、5段階継続的改善プロセスやTQMを通じ、本当に効果的なコスト削減を含む改善を実現しなければなりません。そのためには、社員の積極的な参画が必要ですが、積極的な改善の結果、「熱心に改善を行った社員をレイオフしなければならない」というジレンマが生じてしまいがちだからです。社内を一丸としてまとめ、業績を改善するには、やはり、スループットを増大させ、在庫を減少させる方式のほうが、当然、望ましいと考えます。

さて、こうして、企業の目標(ゴール)は「現在、および将来にわたって、お金を儲ける」ことだとすると、企業の各部分で日常的に行われている意思決定が、企業全体としての業績評価尺度である純利益、ROI、キャッシュフローの改善や向上に与えるインパクトを測定できる部分尺度を提供して、日々の意思決定にマネジャーがいつも使えるようにしなければなりません。

TOCで使う業績測定尺度には以下のようなものがあります。

  • スループット=売上-原材料費
  • 在庫
  • 業務費用
  • 税前利益=スループット-業務費用
  • ROI=税前利益/在庫
  • 在庫回転率=スループット/在庫
  • 生産性=スループット/業務費用
  • 一人あたりスループット=スループット/従業員数
  • 制約資源での時間あたりのスループット
  • 制約資源での予定作業時間比の有効実作業時間
  • 業務費用回収率=(月間業務費用-当日までの累計スループット)/月間業務費用
  • 戦略的なバッファ在庫への指定時点での到着(上流工程からの納期遵守度)
  • その他のコントロール・ポイントで持つ在庫バッファへの上流工程からの納期遵守度
  • スループット・ダラー・デイズ(Throughput-dollar-days)
  • 在庫ダラー・デイズ(Inventory-dollar-days)

TOCは、「生産システムの持つ制約がスループットを制限している」という事実を念頭に、生産現場での作業を行ないます。具体的には、ドラム・バッファ・ロープ (DBR) と呼ばれる方式を使います。「ドラム」は制約資源の処理のペースを意味し、「ロープ」はドラムのペースを入口工程に伝え、入口工程が原材料をリリースするペースを決める役割を持ち、「バッファ」は、上流工程のシステムの不安定性(TOCでは「統計的変動」と呼ぶ)に由来する原材料枯渇 (starvation) による停止を回避するために、制約資源の直前に設置される在庫バッファ(タイム・バッファとも呼ばれる)、および、次工程の停止による制約資源の停止 (blockage) を回避するために、制約資源と次工程の間に設置されるスペース・バッファの二つからなります。つまり、行進の喩えで言えば、最も足の遅い隊員(制約資源)のペースが、隊列の最も早い行進スピードとなるので、彼を自分のペースで歩かせ続けることが必要と

したがって、彼を自分の都合でも、前後の都合でも、決して立ち止まらせないようにします。当然、制約資源の予防保全は重要となります。 生産システムのスループットは、ロットサイズ、段取回数によっても影響されます。処理時間と段取回数は、当然、顧客や市場が期待している納入リードタイムを反映したものでなければなりませんが、TOCでは、最適製品ミックスの処理を優先し、制約資源の使用可能時間から、まず、処理時間を確保し、段取には残りの時間を充当し、それで可能な段取回数を最大にするという考え方をします。他方、制約でない資源では、その資源が制約とならない限度で、段取回数を最大にし、処理バッチを出来るだけ小さくします。また、移送バッチを自動的に処理バッチと同一にせず、できるだけ小さくします。これにより、原材料投入から出荷までのリードタイムを短縮します。なお、TOCは、制約資源の下流ではプッシュ・システムであり、制約資源の上流ではプル・システムです。

TOCでは、制約でない資源、工程は、定義的に未利用キャパシテを持ち、通常、就業時間内のすべてを働き続けることはありません。TOCでは、制約でない資源は、作業スケジュールを与えられることもなく、ただ、上流工程より流れてくるジョブを着実にこなし、それを次工程にすみやかに流します。したがって、制約でない資源の業績を、伝統的な稼働率、作業能率で測定してはいけません。

TOCでは、生産組織を、「製品」と「プロセス」が相互に作用し合うシステムという観点から見ます。こうすると生産組織が、V型、A型、T型という三つの一般的な「論理製品構造」と呼ばれる製品生産構造カテゴリーに分類できます(V-A-T 分析)。論理製品構造により、コントロールのポイントの置き方が異なってきます。制約管理では、生産プロセスを管理するために、下記の五つをコントロールします。

  1. 制約資源
  2. もしあれば、分岐点
  3. もしあれば、収束点
  4. 入口工程
  5. 出荷作業

生産現場の制約資源を識別するには、労働力と機械の負荷についてのMRP IIのレポートを調べたり、もっと単純に、現場を歩き、どこに在庫の山があるかを調べることで行います。現場のボトルネックを見つける場合、現場の責任者、基準生産計画作成の担当者も、よい手がかりを得るソースである。キャパシティ増強の候補となっている設備のリストがあれば、これも有用な情報源です。制約資源は、TOCのインプリメンテーションが進行するにつれ、変化していくので、制約資源の選定が完全である必要はないようです。

最初にTOCを導入しようとするとき、5段階継続的改善プロセスのステップ3で挫折してしまう可能性があります。「他のものをすべてシステムの制約に従属させる」ということは、他の活動を、すべて、制約の下位に置くということです。これまでのやり方を大幅に変更しなければなりません。例えば、作業能率や稼働率で業績評価を行わないように徹底しなければなりません。その過程で、三つの障害を乗り越えなければなりません。それらは以下の三つです。

  • 生産工学で使用する生産性測定尺度
  • 長い歴史を持つ伝統的な原価計算システム
  • 人間関係システム

これらは、非常に強固に確立されてしまっている伝統的な経営方針や現場での業務実務などで、いずれもシステム的な観点から全体を見ていない考え方に基づくものです。これらを関係する人たち全員が捨て去り、TOCの業績評価尺度で意思決定、および、評価を行なう必要があります。したがって、トップダウンによる教育とインプリメンテーションが不可欠です。

TOCの導入を成功させる最も重要な鍵は、経営者の教育です。TOCの導入には、会社の組織全体を通じた教育、および、マネジメント・フィロソフィーの変更が必要となります。まず、導入企業の各ファンクションの損益に責任を持つ人物とコントローラーを教育し、順次、下層まで徹底する必要があります。

TOCのインプリメンテーションを開始して、数ヵ月という短い期間で、肯定的な結果が得られます。工場全体へのTOCの展開は、1年か2年で行えるようです。

TOCは、下記の同期生産原理の考え方をとっています。

  • 原理1 キャパシティをバランスさせようとせず、フローを同期させなさい。
  • 原理1a 個々の作業の作業能率ではなく、仕事の流れに焦点を当てなさい。
  • 原理2 制約資源の追加的な単位時間の限界価値は、その制約で処理される製品のスループット・レートに等しい。
  • 原理2a 制限のある原材料の限界価値は、「その原材料の購入価格」プラス「この原材料を必要とする最終製品のスループット価値」に等しい。
  • 原理2b 制約市場での追加的なオーダーの限界価値は、そのオーダーのスループット価値に等しい。
  • 原理3 制約でない資源の追加的な単位時間の価値は(ほとんど)ない。
  • 原理3a 制限のない原材料の限界価値は、その購入価格である。
  • 原理3b 市場に制約のない製品へのオーダーの限界価値は(ほとんど)ない。
  • 原理4 制約でない資源の利用レベルは、システムの制約に従属する。
  • 原理4a制約でない原材料の利用レベルは、システムの制約が決定する。
  • 原理5 資源は、単に作動されるのではなく、利用されなければならない。
  • 原理5a 原材料は、単に消費されるのではなく、利用されなければならない。
  • 原理6 移送バッチは、処理バッチと等しい必要はなく、多くの場合、むしろ等しくてはいけない。
  • 原理7 処理バッチは、工順的にも、時点によっても、変化してよい。

上記の原理の多くは線形計画法の考え方と同一で、したがって、線形計画法の考え方を知っていると、TOCを理解しやすいとおもいます。
アンブル/スリカンスは、JITシステムは、少なくとも、以下の四つの限界を持っているといっています。

  1. 適用範囲
  2. システムの不安定性(統計的変動)がフローに与える影響
  3. JIT生産環境を完成させるまでの時間が長く、かつ、難しい
  4. JITシステムの継続的改善プロセスはシステム全体を対象としている
1. 適用範囲
JITシステムの適用は、基本的に比較的大量の標準的な製品を生産する反復型生産に従事する産業に限定され、連続フローを持つプロセス産業や、ジョブショップ環境で生産活動を行う受注生産の産業には適用しにくい。
2. システムの不安定性(統計的変動)がフローに与える影響
JIT生産環境では、フローが市場の需要に結びついた引っ張り生産で相互につながっているので、そこで、ある工程が停止すると、兵隊の行進を比喩とした図X.Xで見るように、全員が歩調を揃え、誰もころばず、停止もしないという前提が崩れ、部隊全員が停止せざるをえなくなる。停止する工程がどの工程であろうと、全体が止まらざるをえない。前後に在庫を置くことはJITの精神に反し、また、スペース的にも余分な在庫は置けないようなレイアウトになっている。
3. JIT生産環境を完成させるまでの時間が長く、かつ、難しい
JIT生産環境を成功させるには、生産環境と管理風土を大きく変えなければならない。これを実行するには、アメリカでの経験値では、約7年が必要である。この期間は、通常の生産業務に影響し、資金繰り的にも負担が増し、経営者は忍耐を強いられる。従来の伝統的な生産概念と大きく異なるので、従業員の理解、訓練、教育も不可欠である。品質問題を完全に除去し、段取時間を大幅に短縮し、他の不安定性も工場全体として排除しなければならない。これらを実現するには長い時間と資金を必要とする。
4. JITシステムの継続的改善プロセスはシステム全体を対象としている
JITシステムの継続的改善プロセスはシステム全体を対象としており、特定の、クリティカルな資源に焦点を合せたものではなく、ムダの排除も、継続的改善もシステムのすべてを対象として実行する。また、JITアプローチの採る継続的改善プロセスでは、問題が発生し、システムを停止させるのを待つことを基本的な改善の姿勢としている。そして、問題が発生したとき、その問題がボトルネックや制約資源に関係するクリティカルなものか、本当は、制約でない資源の持つ「統計的変動」に由来するものかの判断をせずに、スループットを増加させるという保証のない問題の解明と解決に貴重な労力やお金を注入することになる。JITは、アンブル/スリカンスのいう「同期生産原理」の「原理2 制約資源の追加的な単位時間の限界価値は、その制約で処理される製品のスループット・レートに等しい」と、「原理3 制約でない資源の追加的な単位時間の価値は(ほとんど)ない」を満足していない。

この点を、要約すると以下のようなことだと思います。

JITは、生産システムが持つ制約を意識しておらず、引っ張り型の生産なので、組立工程のみが生産スケジュールを持ち、制約資源がそれに従属させられていると批判しています。これにより、生産の基準となるMPSが、制約を意識し、同期生産原理の原理2、原理3を満足するものとなっている保証はなく、したがって、このMPSが、最大のスループットをもたらすものに対応しているかどうかはわからないといっています。JITの立場から考えれば、JITでは、理屈の上では、すべての工程のバランスがとれていて、川の流れのように平準化から割り出されたタクト・タイムでものが流れるので、「制約」という概念がないのは当然です。

以上、TOCの概要をまとめてみましたが、著者の見聞きした範囲では、製造企業で十分研究し、理解すべき生産システム理論と考えます。

このページの先頭へ