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[整理No.005] 投稿 佐々木俊雄(2001.07.30)
ジャスト・イン・タイムと制約理論

-日本の製造業にとって制約理論とは-

1、トヨタ生産方式

トヨタ生産方式が世に知られるようになったのは、1973年のオイル・ショックがきっかけであった。原油価格の暴騰のあおりを受け、軒並み業績を悪化させる企業が続出する中、トヨタが目立って堅実な業績を残したのであった。

その後、トヨタ生産方式は、その特徴である「必要なもの」を「必要なとき」に「必要な分」だけ供給するジャスト・イン・タイム(JIT)の名で呼ばれるようになった。セミナーも頻繁に開かれるようになり、広く知られようになってゆく。

しかし、セミナーに通い、書物を読んで勉強しても、製造現場でJITを実践する段階にはなかなか至らない。具体的に、何をどうすれば良いのか、わからないのである。みようみまねでやろうとしても、現場の人たちを説得することもできない。JITが一般企業に普及し始めるのは、トヨタ関連でJITを経験した人たちのコンサルタント活動によってであった。何時間もかかっていた段取り時間が数分に短縮し、長いコンベヤーが次々と撤去されてセル生産方式になる。見上げるような製品倉庫は瞬く間に空っぽになる。信じがたいことが次々と起きる。もはや理屈の世界ではない。JITのコンサルタントは「先生」と呼ばれるようになり、JIT教の教祖的雰囲気まで漂わせるようになる。

2、日本の製造業

主にコンサルタントによって普及が図られてきたJITは、日本の製造業を特徴付ける重要な要素である。特に、バブル崩壊後、大量生産方式の弊害に喘いでいた日本の製造業には、JITは救いの神でもあった。業績回復の切り札はJITしかないと、JITを本格的に取り入れる企業が加速的に増えた。

日本の製造業は、全面的にJITに切り替わったかというと、そうではない。コンサルタントの数と日本企業の数を比べてみればすぐ分かる。大企業でさえ、最近になりようやくJITを導入した。その様子が、今年の5月の「NHKスペシャル」で放映されたのを記憶している方もいると思う。日本の製造業は従来の大量生産方式とJITの混在である。

JITが世に出て約20年。特にバブル崩壊後の10年、大量生産方式との混在ではあるが、JITを導入する企業は確実に増え続けてきた。

3、行き詰まるJIT

1990年代中ごろはJITの成果がマスコミにも登場し、日本製造業復活の兆しとしてもてはやされた。JITを導入すればトヨタの様になれる、多くの人がそう思った。がしかし、最近JITを導入した工場が縮小、閉鎖そして売却されるというニュースが相次ぐようになった。JITを導入した工場でいったい何が起きているのか。

先生の言うことは絶対

JITの工場では、週に一度とか、二週間に一度「改善活動」を行う。コンサルタントの指導を受けるときもあれば、社内の担当者が「先生」に扮し行うこともある。本来は、自分達の問題を自主的に改善することを目指しているのであるが、実態は自主的な改善の場ではなく、「指導の場」である。先生の言うことは「絶対」であり、逆らう事は「ご法度」なのだ。先生は、現場を巡回しながら、「ああしろ、こうしろ」とムダを指摘し改善を指示する。現場の担当者は「それはこれこれこうなんです」と現状の経緯を説明する。先生は、そんな複雑な現場の事情など、短時間に理解できるはずもなく、「とにかく(おれの言うとおり)やってみろ」となる。これで実際、在庫も減るし、人も減る。「先生の言う通りやれ」と工場長も言う。「絶対服従」の雰囲気が出来上がっていく。

やらされる改善

JIT導入の初期は「先生の指導」に衝撃を受け、戸惑い、混乱が起きる。試行錯誤の繰り返しはあるが、それを乗り越え、程なくすると具体的な「成果」が出てくる。「改善活動」に弾みがつき、「先生」の権威も上がる。

改善効果がピークを迎えた後、しばらくすると次第に効果が出にくくなってくる。管理者は「改善活動」の活性化に悩みながらも「はっぱ」をかける。「継続は力なり」と激を飛ばす。「改善活動」のメンバーは、効果の出なくなった活動に疑問を感じながらも、言われたようにやる。管理者と現場の溝は深まってゆく。「やらされる改善活動」がむなしく繰り返される段階に入る。

コストダウンの限界

「改善活動」の指標はコストダウンの金額である。一人減らせば月何万円の削減。作業スペースを有効に使って、浮いた床面積が何平米なので何円の「家賃」が削減、といった具合だ。工程の改善も一個の加工時間が10分から8分に減れば「2分x分単価」のコストダウンである。

コストダウンはJITで始まった訳では、もちろんない。製造業始まって以来の永遠のテーマだ。しかし、JITでコストダウンに加速がつく、と誰しも期待する。むしろ、今となっては、コストダウンの切り札はJITしかない。しかし、費用対改善効果は、収穫逓減のメカニズムの限界にぶつかる。原価計算はその限界さえも正しく認識させない。コストダウンチャートと利益の乖離に漠然と疑問に思う時でもある。

生産理論の限界

「改善活動」は現場でムダを取ることだ。7つのムダがある。ムダを見つけたらすぐにとる。手空きは、人であろうが設備であろうが、ムダだ。だから、ライン編成効率は100%が理想。工程間の仕掛り削減とリードタイムの短縮は繰り返し繰り返しチャレンジするテーマだ。「出来高の最大化」と「仕掛り削減」の間で一進一退を繰り返す。

段取り作業のある工程では段取り時間の短縮が格好のテーマだ。「段取り時間を半分にしよう」と威勢のいい目標が掲げられる。段取り時間短縮x時間単価がコストダウン額である。

「ムダを徹底的に排除」して「理想的なライン」構築を目指す現場は、目に見えぬ壁にぶつかる。それが生産理論の欠陥に起因することは、ほとんど認識されていない。

考えることをやめてしまった現場

JITによる「改善活動」は自ら進んで行う改善活動ではない。業績低迷に喘ぐ経営者・管理者がJITを使えばもっと改善ができるはずだ、成果が出ないのはまじめにやってないからだと思い、拍車をかける。時々「先生」を呼んで「改善活動」を加速させる。現場では「先生」の指示に従う習性がしみこむ。現場独自の改善はJITのルールから外れ、提案する価値もない。自ら考えることをやめた現場改善が成果を出すことは期待しがたい。

4、トヨタはなぜ発展し続けるのか

JITが他の企業に取り入れられて、早、20年が過ぎた。その結果は、日本の多くの企業の、誤解を恐れずに言えば、トヨタ以外の企業のJITは行き詰まっている、ということなのだ。しかし、トヨタは発展し、強大化し続けている。トヨタのトヨタ生産方式とその他の企業のJIT(以下日本のJITと呼ぶ)とは、何か決定的な違いがあるのではないか、という予感がする

最近発行された「トヨタ式最強の経営」柴田昌治・金田秀治共著、日本経済新聞社はその違いを明らかにしようとしたものだ。以下はそれからの引用である。

「トヨタ生産方式を教えるコンサルティング会社もあまたある。その改善方法の多くはパッケージ化されている。しかし、いくら出来合いのトヨタ生産方式を導入しても、本当に成功する企業はほとんど出てこない。現状のひどい生産システムを改善することにより、一時的に大きな効果を出すことはそれほど難しくないが、それ以上はよくならず、システムは古びていくばかりなのに、社員による自主的な改善活動は根づかずに終わってしまうことのほうがはるかに多い」

さらに本書は、ハーバード・ビジネス・スクールが4年間にわたって行った調査結果「トヨタ生産方式の"遺伝子"を探る」(H・ケント・ボウエン/スティーブン・スピア執筆、坂本義実訳、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス 2000年3月号)から以下を引用している。

「トヨタは驚くほどオープンにそのノウハウを披露してきた。しかし不思議なことに、上手に再現できたメーカーは皆無である。何千という企業から数十万人ものマネジャーがトヨタの工場を訪問したが、トヨタに匹敵するような成果を上げることはできなかった」

しからば、トヨタのトヨタ生産方式の本質とはなにか。キーになることばを拾い出してみた。

  • 「トヨタ生産方式は作業者の自己管理を出発点として組み立てられている生産方式」
  • 「トヨタ生産方式は儲かるIEである」
  • 「トヨタを超えるポスト・トヨタ方式」
  • 「自主的な常識はずれの改善活動」
  • 「問題を顕在化させて、困ることで知恵を出させるトヨタ『改善方式』」
  • 「明日の準備をする経営であり、変わり続ける会社」
  • 「経営マインドを持つ管理者」

トヨタのトヨタ生産方式は、私なりに言い換えれば、「変幻自在に進化する生産方式」である。「日本のJIT」とは、似て非なるもの、基本的には全くの別ものといえる。「日本のJIT」が抱えている問題など、トヨタにとっては無縁のものに違いない。

5、日本のJIT;行き詰まりの打開

トヨタだけが進化し続ける理由と「日本のJIT」が行き詰まっている現状を対比させると、そこには、決定的な違いが浮き彫りになる。「日本のJIT」には進化するメカニズムが組み込まれていないのである。強制と管理の中で道具として使われているに過ぎない。JITを導入すればトヨタになれる、と多くの人は考えていた。しかし気が付いてみると、そうではない。何か忘れている部分がある。それならば、その部分を追加してJITを建て直そう、と思うかもしれない。

トヨタ生産方式はトヨタ自動車そのものである。トヨタが培ってきた風土・体質そのものである。それは、トヨタの人間にも自覚できないぐらい企業文化の中に染み込んでいるのである。50年以上もかかって形成された企業文化を移植することは不可能に近い。それぞれの企業はそれぞれの企業文化をもっている。そこにトヨタの企業文化を移植しても拒絶反応が起きてしまう。免疫抑制剤を使ったところで、それはごまかしでしかない。

トヨタに近づく方法はないのか。いや、いっきにトヨタを超える方法はないのか。日本製造業が直面している大きな課題である。

最大の問題はなんであったか。強制と管理は考える力を奪い、進化させるエネルギーを減退させる。部分最適の活動は利益改善と乖離し、改善活動そのものの有効性を希薄化する。

部分最適を全体最適の視点から捕らえ直さなければならない。なぜなぜと疑問を持ち、根本原因を見つけ、自ら策を考え出さなければならない。継続して変化し続けるメカニズムが組み込まれていなければならない。そして、一企業特有の企業文化の中でのみ機能するものではなく、できるだけ多くの企業に通用する、よりジェネリックな方策でなければならない。

6、制約理論(TOC)の登場

制約理論は、ご承知のように、一企業で発展してきたものではない。従って、特有の企業文化との結びつきはない。一般的な企業の目標とそれを実現する方法を論理的・合理的に体系化しているため、いかなる企業文化にも適用できる共通性を有している。

継続的改善の仕組みについてはどうだろうか。五段階継続的改善プロセスは工程改善の基本的な仕組みである。なぜなぜ5回で真因を追究することに対して、制約理論は思考プロセスというはるかに論理的に、体系的に中核問題を突き止め、解決するまでの方法を提供する。部分最適を廃し、企業の目標に向かう全体最適の視点は、正に「儲けるIE」である。原価計算による誤った意思決定を避けるため、スループット・アカウンティングを使う。「日本のJIT」の理想が持つ論理的矛盾は制約理論で解消される。できないことをできるかのごとく考えての努力はむなしい。制約理論はその徒労を回避する。自らの活動と成果(利益の増加)が直結する改善活動は、自主性を取り戻す絶対条件でもある。

JITを超えたのは(日本では)トヨタだけだ。それはトヨタにしかできないことでは決してない。今、制約理論がJITを乗り越える乗り物として登場した。試乗してみる価値は大きい。

佐々木俊雄
2001年8月

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